【十六夜のプロローグ】




さて、事の顛末を振り返ってみよう。
僕は仲間と共にエルパディアで一仕事を終え、ホームへ戻る最中であった。
そう、荒事は一切終えて後は馬車屋まで歩くだけ。もう何も心配することなどないはずだった。
それが何故 気付けば僕がたった一人森の中で立ち尽くす有様になっているのだろう。


このまま帰るのはなにか惜しいと思った。
しかしそれはとても漠然としていて、留まったから何がどうなるというわけでもない。
強いて言えばこの静寂にもう少しひたっていたい気か。

虚ろに佇む大木に身を寄せて夜空を仰ぐ。
早春を迎えたとはいえまだまだ衰えない寒空で、十六夜月だけ輝いているのが木々の間から見えた。
冷たい夜風が心地よく己を撫でてくれ、何の邪魔も騒音もやってこないこの時間帯が好きだ。

やはり一人が好きという性分なんだろうなと思った。
もちろんそれは最も深い根っこの部分であり、
適度に他人と関わり合い、自分にはない物に触れ意義を見出すというのが自分のやりたいことだ。
だが それの何と難しいことかを最近考えるようになっている。

今日まで同行した、未来の暗殺者とか言っていた子の目も輝いていたなあ。
絶好調で生きるのを楽しんでいるんだろうなあうらやましい。
何がそんなに夢中にさせるんだ。

あの町には物語に出てくるような人がたくさんいる。もちろんそうでない人もたくさんだが。
時に勇敢な 時に賢明な、そして時には影を帯びた姿を間近に投げかける。
彼らをそうさせるものとは何だろう。冒険者になるくらいだからなあ。
結末がどうであれ山のある人生というのに憧れている所が僕にはあるんだな。
冒険者を続けているのもそれがあるのかも。

じゃあ自分は何かを必死にしたことがないのかって言えばそれは違う。と思う
結果的に危ない橋を渡るなんてのは問題外として、確かに僕は自分以外のために命を張ったことはあるのだろう。
だが果たしてそれで彼らと同じ、あるいは似た感想を持てたかと言われればそれも疑問に残る。
こういう言い方は好かないが、セオリーに自分が組み込まれていたからそれに乗ったというか。
やるべきことをやっただけであって、望むべき結果を得ても何か。何かが違う。得なくても違う?
他人に何かすることに対し自分の気分どうこう言っている時点で僕はなっていないのだろうが。

気付けば立ち上がり、無心に歩を進めていた。風が気持ちいい。
まさか森の中で一人夜を明かすなんてつもりはさすがにないし、
といっても特に方向なんて意識していなかったが…迷ったら引き返せばいいだけだ。


まあ僕はそこらへんの感受性が低いんだというだけで何も問題はない。
掛け合いは適当に楽しみ、必要とされたら手を差し伸べ、酷いことを見たら悟ったように振舞う。
そんな毒にも薬にもならない存在でOKなんだ。
今までだってそうじゃないか。
贅沢な悩みなのだ。

そんなことのために心配をかけないような言い回しを使ってまで皆と別れてしまった。
駄々をこねた子どもではあるまいし
これでは彼の方がよっぽど──いや彼は見かけより少しだけ年が上なんだっけ、まあいいか。
ちゃんと帰って謝っておこう、どうでもいいかもしれないが、今から言い訳とか考えて。

それで これからも同じように  ……











…へんだな。

泣き声が聞こえてくる。

泣きたいのはこっちなのに