この文章はセッション中話が出ない限り実在の人物とは特に関係がないはずです、きっと、たぶん。

《結婚とは何だろう?》

 
 
 
北の壁と南の壁の真ん中にはそれぞれ扉、北の方の扉はフライシュッツの部屋に続く、
扉以外の壁には本棚がずらり、東と西の壁には窓が、
西側の窓の近くには机とそれを挟んでソファ、二人がけの大きなソファが窓側に、一人用のソファが二つ東側に、
東側の窓の近くには机と様々な機材と、お砂糖とかお茶の葉っぱとか、
 
とても天気が良い日、
窓から差し込む日差し、
暫く無言の一時、スティはマグカップの中身をすすりながら本をめくる、
中身は甘くておいしいホットチョコレート、
イーサはその日は居なくてフライシュッツも居なくて、
アティアとスティが向かい合ってソファに座っている、いつもより少し静かに、だけどいつもと変わらない感じで、
頬杖をついて考えごとをしていたアティア、ふと想う事があって口を開く、
 
「あのさぁ」
「はいはい?」
「少し聞いてみたい事があるんだけど良いかい?」
「あーあたしに答えられる範囲の事でしたらー、なんです?」
「結婚てどう思う?」
「うごっふ」

咳き込むスティ、
ただの咳き込みなのか笑いなのかよく分からない事になっている声を暫く上げる、
 
「いやその反応はあんまりじゃないかい!? 自分でも変な事聞くなとは思ったけどさ!?」
「ごふ、ごっほ、いえ、あちゃーさんが結婚とか気にするとかあっはっは」
「なんか話し方に凄く悪意を感じるのはボクの気のせいかい」
「あくいなんかありませんよえぇありませんともみじんたりとてありませんとも」
「話す時は人の目を見て話しなさい」
 
ここでアティアは溜息一つ、そして話を続ける、
 
「前にボカァそれなりにそれなりな家の生まれみたいな話はしたじゃない?」
「そう言えばそんな話もしましたねー」
「それで最近思ったんだけどさ、冒険者やってるとあんまし実感しないけど、年齢も20行ってる訳だし、もし実家に居たら今頃お見合いの一つや二つしてるのかなぁと思ってさ」
「あれ?」
「ん?」
「あちゃあさん、にじゅうじゃなくてじゅうにじゃないですか」
「どうやら命が惜しくないと見える」
「いえジョークです、ジョーク、まさかほんきでいってるわけないじゃないですか」
「人の目を見て話しなよ」
 
ふぅ、と溜息一つ、どちらから漏れた物だか判然としない、
 
「結婚ー……ですかー……」
「年齢的には、してる人もいる年齢なんだよねぇ……」
「あちゃーさんそう言う事悩む人ですっけ」
「悩んでるわけじゃあないんだけど、気になりはするんだよ」
「あー、なんか私達とかずっと一人身のまんまみたいな感じもしますからねー」
「あーそんな感じはするよねボク達」
 
笑い声、後、息のあった溜息、
 
「……まぁ、別にずっと一人身でも構いはしないんじゃないかと思いますけれども」
「まぁ実際構いはしないのだけれどもねぇ」
「と言いますかアティアさんがこう言う、何と言うんでしょうか、色恋方面の話題を自分からふってくるのは珍しいですね」
「そうかい? まぁそもそも結婚云々は純粋に色恋かと言うと疑問も残るけれども……」
「えー」
「えー、って、何が不満なんだい」
「冷めてますねぇ」
「だから何がさ」
「まぁそれはおいといて」
 
おいといて、のジェスチャー、
 
「実際あれですよね、冒険者の人達って結構年行ってる人でも結婚してない人と言いますか、出来そうもない人が妙に多いですよね」
「30過ぎてる人とかも居るんだけどね」
「緑色した方とか……」
「それは……」
 
何故か沈黙が続く、
 
「逆に出来そうなのにしてらっしゃらない方も多いですよねぇ、こう、貴族っぽい生まれでそれなりに顔もよくてーと言う、何なんでしょう、貴族の次男坊三男坊な方々」
「まぁそう言うのはむしろ実家に居たらそう言うのもあるから飛びだしてきた、と言うのもあるんじゃあないかい?」
「成程、まぁ確かにそう言うお家のしがらみーとか嫌ってそうな方はそれなりに多いですねぇ」
「よく緑色と一緒に居るアレとかね」
「赤いあの人ですね、でもあの人結構女性にもてそうな感じするんですけどどうなんでしょうねぇ」
「でも本人はむしろそう言うしがらみ一番嫌いそうだからねぇ、何と言うか、そう言う恋愛に関しては普通に支え合う、みたいなのは無理じゃないかなあの人」
「もっと素直になったらきっと素敵なお嫁さん見つかるんじゃないかなぁと思うんですけどねぇ、案外優しいですし」
「……………………」
「なんです?」
「それは本気でいってるのかい君」
「え、なんかおかしい事言いましたか」
「うん、いった」
「どこら辺おかしかったですか」
「しいて言うなら君の頭だよね」
「そりゃもう手遅れですね」
 
アティア、やれやれ、と言うジェスチャー、
 
「そう考えるとやっぱりあれですねぇ、冒険者って安定して所帯持ちそうな人間居ないですねぇ」
「そんな人間はそもそも冒険者にならないだろうけどね」
「まぁそりゃそうですね、でもこう、カップルは時々みかけるんですけどねぇ」
「だから純粋な恋愛と所帯を持つのはまた違うでしょ」
「ぬーん」
「言いたい事は分から無いでもないけれども、ただ人を好きだって言うのと実際に生活をするのじゃあ重みが違うからねぇ」
「でもやっぱり好きな人と一緒に居た方が嬉しいものじゃないですかー」
「それは君、結婚と恋愛が必要十分な状態じゃないって事さ、結婚と恋愛には重なり合う部分もあるけれども同一じゃない、そう言う事だね」
「そう言う物ですかねぇ」
「例えばイーサなんかはどうもアレみたいだけどアレがアレで結婚すると言うのはどうもアレじゃないか」
「あぁ、アレがアレでコレですからね」
「そう、アレアレ」
 
でも、と話は更に逸れていく、
 
「イーサだったらそれなりにいいお嫁さんになると思うんですよ」
「ボクには朝ごはんが消し炭になる未来しか見えない」
「いやそう言う範囲魔法的な話ではなく、結局のところ普段私達にお茶入れてくれるのもイーサですしねぇ」
「まぁ、面倒見と言うか何と言うか、そう言うのはよさそうではあるけどね」
「料理とかも勉強したらあの子上手くなるんじゃないですかねぇ」
「君とは違ってね」
「うぐっ」
 
沈黙、スティからの何とも言えない視線、
 
「……悪かったからそんな目で見ないでよ」
「うー」
「そう考えるとアレだねぇ」
「アレ、とおっしゃいますと」
「スティは決していいお嫁さんにはなれないよね」
「この上まだ追い打ちをかけますか!?」
 
半泣きで身を乗り出すスティ、
 
「そんな事言ったらあちゃーさんだってそう言う家事的なスキル無いじゃないですか! なんか長い間家空けたり平気でしそうじゃないですか!」
「ボカァ結婚なんてしなくてもいいし、最低限の料理くらいならできるさ」
「そんなもん男の手料理と何が違うと言うんです! あんなのただの丸焼きですよ丸焼き!」
「丸焼きも出来ないよりはボカァ遥かにマシだと思うねッ!」
 
ずびしぃ、と付きつけた指、
それが徐々に下がってくる、
 
「……なんか低レベルな争いだね」
「ひとのあらそいとはこんなにもむなしいものなのですね」
 
二人の溜息が重なる、
 
「あれだよねぇ」
「どれですかー」
「結婚したいしたくない、ではなくさぁ」
「はいはい」
「そのためのスキルが無い、って言うのが、こう、劣等感を煽るよね」
「そうですねぇ……」
「……」
「……」
「まぁ、この話はこれでお終いにしようか……」
「そうですね……」
 
沈黙する二人、特に盛り上がりもなく、終われ、